伊藤清三のルベーグ積分入門 | 直線上の有界変動関数の全変動がWell-Defineでない問題!
この記事では, 伊藤清三先生のルベーグ積分入門の139ページで, 有界変動関数の全変動を定義がWell Defineにならない問題について解決する.
- 作者:清三, 伊藤
- 発売日: 2017/04/06
- メディア: 単行本
直線上の有界変動関数の全変動がWell-Defineでない問題!
伊藤清三先生のルベーグ積分入門の139ページで, 有界変動関数の全変動を定義している.
しかし, この定義では, Well Defineにならない.
それゆえに, 補助定理1が成り立たない(反例が見つかる).
このノートでは, まず, Well-Defineにならないことと, 補助定理1の反例をあげて, その解決策を提示する.
は, で定義された有界な実数値関数とする.
全変動の定義
ルベーグ積分入門では, 以下のように, 有界変動関数の全変動を定義している.
次にをで有界変動で右連続な任意の函数 (絶対連続とはかぎらない) とすると, は でで右連続な二つの単調増加函数, 差として表わされる:
そして, は, の全変動と呼ばれる.
問題点
定義の問題点
上の定義の問題は, 一言で言うと, Well-Defineにならない.
すると, との選び方として, 無限個ある.
例えば, とか, とか.
すると, の全変動は, 前者は, で, 後者は, である.
つまり, をとで表す方法によって, 全変動の値が変わってしまう.
補助定理1が成り立たない問題
また, 定義がうまくいかないので, 定理がうまくいかないだろうと予測はつく.
一応, 補助定理1の反例をあげる.
まず, 補助定理1は, 以下のような定理である.
補助定理1 | 次の三つの条件は同等である:
が絶対連続である.
, がともに絶対連続である.
が絶対連続である.
同じようにとすると, である限り, あらゆる右連続な単調増加な関数が
を満たす.
, として, 不連続な関数を, 取ってきても上の式が成り立つ.
不連続ならば, 絶対連続でないから, 定理に矛盾.
解決方法
定義を変える
伊藤先生も, , , を自由に選んで, 定義しているわけではなさそう.
だから, 選び方を”うまく”一つに固定すればよい.
固定の仕方として,
杉浦光夫先生の解析入門Ⅰの351ページで, 有界変動関数が, 2つの単調増加な関数の差で表せるという証明において, 単調増加な関数を実際に構成していたので, それを採用する.
- 作者:杉浦 光夫
- 発売日: 1980/03/31
- メディア: 単行本
2つの単調増加な関数は, 以下のように構成されていた.
とおくと,
とすると, どちらも単調増加な関数になる.
なぜならば, は, が増加すると, 区間が大きくなる.
よって, 足し合わせる領域が大きくなるので, が増加する.
は, として,
最後の不等式は, は, 区間のあらゆる分割のなので, .
このとを定義に採用すれば, 補助定理1も容易に証明できる.