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Machine learning, Causal Inference, Algorithmic game theoryなどに興味があります。

伊藤清三のルベーグ積分入門 | 直線上の有界変動関数の全変動がWell-Defineでない問題!

この記事では, 伊藤清三先生のルベーグ積分入門の139ページで, 有界変動関数の全変動を定義がWell Defineにならない問題について解決する.

ルベーグ積分入門(新装版) (数学選書)

ルベーグ積分入門(新装版) (数学選書)

直線上の有界変動関数の全変動がWell-Defineでない問題!

伊藤清三先生のルベーグ積分入門の139ページで, 有界変動関数の全変動を定義している.

しかし, この定義では, Well Defineにならない.

それゆえに, 補助定理1が成り立たない(反例が見つかる).

このノートでは, まず, Well-Defineにならないことと, 補助定理1の反例をあげて, その解決策を提示する.

 F(x)は,  [a, b] で定義された有界な実数値関数とする.

全変動の定義

ルベーグ積分入門では, 以下のように, 有界変動関数の全変動を定義している.

次に F(x) [a, b]有界変動で右連続な任意の函数 (絶対連続とはかぎらない) とすると,  F(x)は で [a, b]で右連続な二つの単調増加函数, 差として表わされる:


F(x) = F_1(x) - F_2(x)
そして,

V_F(x) = F_1(x) + F_2(x)
は,  V_F(x)の全変動と呼ばれる.

問題点

定義の問題点

上の定義の問題は, 一言で言うと, Well-Defineにならない.

例えば, 有界変動で右連続な任意の函数として,  F(x) \equiv 0を取る.

すると,  F_1(x) F_2(x)の選び方として, 無限個ある.

例えば,  F_1(x) = F_2(x) = xとか,  F_1(x) = F_2(x) = 2xとか.

すると,  F(x)の全変動は, 前者は,  2xで, 後者は,  4xである.

つまり,  F(x) F_1(x) F_2(x)で表す方法によって, 全変動の値が変わってしまう.

補助定理1が成り立たない問題

また, 定義がうまくいかないので, 定理がうまくいかないだろうと予測はつく.

一応, 補助定理1の反例をあげる.

まず, 補助定理1は, 以下のような定理である.

補助定理1 | 次の三つの条件は同等である:

 F_1(x)が絶対連続である.

 F_1(x),  F_2(x)がともに絶対連続である.

 V_F(x)が絶対連続である.

同じように F(x) \equiv 0とすると,  F_1(x) = F_2(x)である限り, あらゆる右連続な単調増加な関数が


F(x) = F_1(x) - F_2(x)

を満たす.

 F_1(x),  F_2(x)として, 不連続な関数を, 取ってきても上の式が成り立つ.

不連続ならば, 絶対連続でないから, 定理に矛盾.

解決方法

定義を変える

伊藤先生も, ,  F_1(x),  F_2(x)を自由に選んで, 定義しているわけではなさそう.

だから, 選び方を”うまく”一つに固定すればよい.

固定の仕方として,

杉浦光夫先生の解析入門Ⅰの351ページで, 有界変動関数が, 2つの単調増加な関数の差で表せるという証明において, 単調増加な関数を実際に構成していたので, それを採用する.

解析入門 Ⅰ(基礎数学2)

解析入門 Ⅰ(基礎数学2)

2つの単調増加な関数は, 以下のように構成されていた.


V(a, x, F) = \sup \sum_{j=1}^{N}\big|F(x_j) - F(x_{j-1})\big| \quad (a, x]\text{のあらゆる分割で}\sup\text{をとったもの}.

とおくと,


F_1(x) = V(a, x, F) \\
F_2(x) = F(x) - F_1(x)

とすると, どちらも単調増加な関数になる.

なぜならば,  F_1(x)は,  xが増加すると, 区間 (a, x]が大きくなる.

よって, 足し合わせる領域が大きくなるので,  F_1(x)が増加する.

 F_2(x)は,  y > xとして,


F_2(y) - F_2(x) = V(a, y, F) - V(a, x, F) - F(y) + F(x) \\
F_2(y) - F_2(x) = V(x, y, F) - (F(y) - F(x)) \geq 0

最後の不等式は,  V(x, y, F) は, 区間 (x, y]のあらゆる分割の \supなので,  V(x, y, F) \geq (F(y) -F(x)).

この F_1(x) F_2(x)を定義に採用すれば, 補助定理1も容易に証明できる.

以後, これを踏まえてルベーグ積分入門の残りの章を読むことにする.